富岳のシミュレーション


富岳のシミュレーション実験でもマイクロ飛沫では効果無し


[PDF] [画像]

スーパーコンピューター富岳を使った実験でマスクが有効性が示されたと何となく思っている方が多いと思われますが、その資料には『ただし20ミクロン以下の小さな飛沫に対する効果は限定的であり,マスクをしていない場合とほぼ同数の飛沫が,気管奥にまで達する』と書いてあります。[1]

新型コロナウイルスが空気感染(エアロゾル感染やマイクロ飛沫感染など呼び方は色々ある)であることはCDC(米国疾病予防管理センター)でも2021年5月には認められています。[2]

空気感染がある以上、マスクの効果は限定的です。


富岳のシミュレーションはパラメータによって結果が大きく変るので参考程度


[PDF] [画像]

話が少し逸れますが、情報処理技術者でもある筆者の観点からみて、富岳は素晴らしいスーパーコンピューターだと思います。特にその並列度は圧倒的で、並列に様々な感染状況などを想定して高速にシュミレーションを行うことができることが魅力です。実際、17ヶ月の期間のうちに、1000以上の樣々な感染状況などを想定し結果を出したそうです。[3][4]

更に特筆すべきは、富岳の使い勝手の良さです。富岳には市販のオペレーティングシステム RedHat/Linux を同等の使い易さを保ったまま富岳用に拡張されインストールされています。皆さんがよく御存知のあの恰好よいCG(コンピューターグラフィックス)も、富岳を使って描かれています。これには筆者も富岳のその汎用性の高さに驚きました。(一般的には、スーパーコンピューターではシミュレーションの計算だけをさせて、手元のパソコンでCGを作ります。これには利用料金の問題も絡んできて、料金が問題とならないであろう理研自身の研究だからという面もあるとはいえ、です)

ただし誤解して欲しくないのですが、一つの感染状況だけであれば、皆さんが入手可能なレベルのPCでも、富岳が使ったものと同じソフトウェアとデータさえあれば、シミュレーション計算し結果を得ることも、CGで恰好よい動画を作成することも可能です。繰返しになりますが、あくまで富岳は様々なシチュエーションを並列かつ高速で実行することが可能ことがその特長なのです。

しかもその結果は、富岳シミュレーション資料に御叮嚀に『感染リスクについては,パラメータの設定で大きく結果は変わるので,あくまで参考値としてください!』と書かれています。つまりパラメータ(現実世界の挙動を仮定した数値)によって結果は大きく変ることに留意する必要があります。

このことを知らずに「富岳でマスクが有効だと結論が出た」と誤解している人が多いのでは無いでしょうか。

もう一つ、世間一般との乖離が大きいと思う点を一点指摘します。理研の報道陣向け発表、特にそれを受けてもメディアの報道発表は、「マスクに有効性があった」という論調が多かったと思います。しかし富岳の論文の中身は富岳がシミュレーションの実行を厖大な数できることやアルゴリズムを工夫して計算速度を向上させたことなどが主です。論文の結論としてマスクの有効性を謳ってはいないとにも注意して下さい。


参考文献

  1. 坪倉 誠, ``室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策,'' 2020年10月13日資料, 2020/10.
  2. CDC, ``Scientific Brief: SARS-CoV-2 Transmission,'' 2021/05.
  3. 理化学研究所, ``「富岳」を用いたCOVID-19の飛沫・エアロゾル拡散モデルシミュレーションが、2021年ゴードン・ベル賞COVID-19研究特別賞受賞,'' 2021/11/19
  4. ANDO, Kazuto, et al. Digital transformation of droplet/aerosol infection risk assessment realized on" Fugaku" for the fight against COVID-19. arXiv preprint arXiv:2110.09769, 2021.