まず RCT とは Randamized Controlled Trials (ランダム化比較試験)の略です。そもそ RCT を何故行う必要があるのかということから解説します。
RCT より二段階低い研究手法として Case Control Studies (症例対照研究)があります。例えば肺癌になった人がどのような生活をしていたかを調べ、肺癌になっていない人とどのような違いがあったかを見付け原因を探ろうとするものです。過去に遡って調べるので、後向き研究と呼ばれます。
煙草が原因かどうかを調べるには、患者に喫煙の有無や頻度を訊く必要があります。しかし訊いても過去の記憶なので間違っているかもしれないし、医者にヘビースモーカーであることを知られなくて、過少申告することや、逆に喫煙が原因だと強く思い過大報告することも考えられます。このようなバイアス、報告バイアスが避けられません。
また肺癌になった喫煙者、非喫煙者、肺癌になってない喫煙者、非喫煙者を、現実の比率に近くなるように集めないといけませんが、それだけでも難しいのです。肺癌になった人は病院に来てますが、なってない人は病院には来ないのですから。
症例対称研究よりもエビデンスレベルが高い研究が Cohort Studies (コホート研究) です。アンケートを実施し、煙草を吸う人、煙草を吸わない人との集団に分け、何十年もかけてそれぞれの集団の中での肺癌の発生率を調べるというものです。未来に向かう研究なので前向き研究と呼ばれます。(後向きのコホート研究もありますが説明は省略します) しかしこれでも、煙草を吸う人に肺癌が多いという結果が出ても、実は煙草を吸う人はよくコーヒーを飲んでいて、コーヒーが真の原因という可能性が残ります。これを交絡因子と呼びます。
バイアスと交絡因子を排除する実験として RCT があります。RCT では集団をランダム(無作為)に二つの群に分けます。上の例でいうと、被驗者を集めて、これから煙草を吸ってもらう群とそうでない群とにランダムに振分けます。ランダムに振分け未来に調査することでバイアスが入る余地が減らせます。また喫煙群と非喫煙群のどちらにも、例えば元から煙草を吸う人も吸わない人もコーヒーを普段から飲む人と飲まない人も同様の比率で含まれ交絡因子を排除することが期待されます。他の要因についても同じです。そして何十年もかけて肺癌の発生率を調べることになります。
煙草の例はあくまでも例ですので実際に実施されているかどうかは問わないで下さい。ずっと好きでも無いのに煙草を吸い続けないといけなかったり、好きなのに喫えないのは勘弁願いたいですし。
新薬の治験の例なら、薬を飲んでもらう群と、薬だと称した偽薬を飲んでもらう群とに分けます。その際、被驗者には自分が飲むのが薬なのか偽薬なのか分らないようにします。更に薬を処方する医師にもどちらか分らないようにすることを二重盲検法と呼びます。
前置きが長くなりましたが、RCT のエビデンスレベルが高いという説明が終りました。ようやくこれで新薬と違い、マスクのRCTは介入群に有利な結果が出やすいという説明ができます。
RCT では試験に参加する人達は「どのような効果を期待した試験なのか」説明を受けて参加しています。これがマスクのRCTの場合、マスク群はコロナやインフルを予防することを期待し試験だと知っています。そこまでは薬と偽薬を使うRCTと同じなのですが、マスクRCTの場合は自分がマスク着用群に振分けられたのか、非着用群に振分けられたのか分ってしまう、オープンラベル試験とならざるを得ません。偽マスクは作れませんから。
これが偽薬を使える薬の RCT とマスクRCTとの大きな違いです。偽薬であってもどんなに効かない薬であったとしてもプラセボ効果はあり得るので、マスクにもプラセボはあり得るのです。薬、偽薬、マスク着用にだけはプラセボが期待でき、マスク非着用にだけプラセボが期待できないということになります。
このこともマスク論文を解釈する上で念頭に入れるべきでしょう。